情報理学の誕生

平成初期、九州大学における情報系教員の所属はまちまちで、工学部情報工学科、総合理工学研究科情報システム学専攻、理学部附属基礎情報学研究施設、工学部電気工学科の1小講座や電子工学科の1小講座、教養部の情報科学担当など、その所属先は多岐にわたっていた。九州大学では、情報科学の新たな展開のため、これらの情報系教員を結集させ情報科学に重点をおく新研究科を創ろうという構想が、全学的に議論されていた。この構想に電気電子工学が加わり、情報と電気・電子を両輪としたシステム情報科学研究科(現システム情報科学府/研究院)が創設された。平成8年(1996年)4月のことである。

システム情報科学研究科には、情報理学専攻、知能システム学専攻、情報工学専攻の情報系3専攻と、電気電子システム工学専攻、電子デバイス工学専攻の電気系2専攻が置かれた。日本の大学に「情報理学」の名を冠した学科や専攻が設置されたのはこれが最初である。情報科学専攻ではなく情報理学専攻としたのは、

工学部(Engineering
vs
理学部(Science)

の対比になぞらえることで情報工学専攻との差異を強調し、情報理学専攻の存在意義を鮮明にすることを狙ったものである。すなわち、情報理学は情報の理(ことわり)を追究する基礎科学であり、工学の一分野である情報工学とはその性格を異にしている。

情報理学コースの設置

大学院教育の充実には学部段階での基礎教育の充実が欠かせない。情報理学専攻を除く4専攻は工学部電気情報工学科(平成8年度より電気工学科・電子工学科・情報工学科を統合)の教育を担当し、そこから多くの学生を受け入れていた。しかし、情報理学専攻だけは学部生を持たず、主な進学者は九州大学理学部の出身者や他大学の出身者であり、そのバックグラウンドは様々であった。情報理学コースの設置は、情報理学専攻にとって理学部附属基礎情報学研究施設時代からの悲願であった。
平成10年(1998年)4月、物理学科に情報理学コースが設置され、物理学科入学者は2年次の後期から物理学コースと情報理学コースに4:1に分かれ、それぞれ、専攻教育を受けることとなった。情報理学専攻は待望の学部生を持つことができたのである。
情報理学コースは、定員12名前後の小さなコースではあるが、その分学生と教員の距離が近く、独自のカリキュラムの下、濃密な情報理学教育を行うことができる。また、工学部電気情報工学科と比べ、情報理学コースには研究志向の学生が多く、修士課程修了後の博士後期課程進学率が高いのも同コースの特徴である。

学府・研究院制度

九州大学では平成12年(2000年)の大学院重点化の完了とともに、全国初の「学府・研究院制度」を設けた。これは,大学院の教育研究組織である「研究科」を大学院の教育組織としての「学府」と教員の所属する「研究院」とに分離して、相互の柔軟な連携を図るものである。これに伴い、 システム情報科学研究科はシステム情報科学府とシステム情報科学研究院に分離された。また、システム情報科学研究科の下に置かれていた5専攻は学府と研究院に分離され、旧〇〇専攻は学府においてはそのまま〇〇専攻、研究院においては〇〇部門と呼称された。システム情報科学研究院は、システム情報科学府の大学院教育と工学部電気情報工学科および理学部物理学科情報理学コースの学部教育の責任部局となった。情報理学コースの専攻教育については、引き続き情報理学部門が担当することとなった。

キャンパス移転

平成17年(2005年)10月から九州大学の伊都キャンパス移転が開始され、システム情報科学研究院は、平成18年(2006年)10月から新キャンパスで教育研究を行うこととなった。一方、理学部の教育を担当する理学研究院と数理学研究院はそのまま箱崎キャンパスにとどまり、理学部の講義は箱崎で開講された。情報理学コースの学生は、他の理学部の学生と同様、入学から2年次前期までは六本松キャンパスで全学教育の講義を受け、2年次後期からは箱崎キャンパスで専攻教育の講義を受ける。しかし、4年次になると卒業研究のため、指導教員のいる伊都キャンパスまで通わねばならず、通学時間の増大や2度の引っ越しなど、大きな不利益が生じていた。このためか、情報理学コースは物理学科1年生に一時的に不人気となってしまった。なお、この期間、情報理学コースの講義担当者は、講義のたびに伊都キャンパスから箱崎キャンパスへ移動していた。

システム情報科学府/研究院の改組

平成21年(2009年)4月より、システム情報科学府の5専攻は情報学専攻、情報知能工学専攻、電気電子工学専攻の3つに再編され、システム情報科学研究院の5部門は、情報学部門、情報知能工学部門、情報エレクトロニクス部門、電気システム工学部門の4つに再編された。情報理学コースの教育は、主として情報学部門が担当することとなった。

移転の前倒し

平成21年(2009年)4月、伊都キャンパスセンターゾーンの一部が完成し、それまで六本松キャンパスで行われていた全学教育が伊都キャンパスへ移転した。これを受けて、理学部5学科のうち数学科は、平成21年(2009年)10月に数理学研究院とともに新キャンパスに移転し、数学科の専攻教育は伊都キャンパスで行うこととなった。情報理学コースも伊都キャンパスで講義を行うことが認められた。これにより、数学科と情報理学コースについては、平成21年度(2009年度)入学生からは1年次から4年次までのすべての講義が伊都キャンパスで受講でき、平成20年度(2008年度)入学生についても、2年次後期からの専攻教育を伊都キャンパスで受講できることとなった。前述の不利益はこれで解消し、情報理学コースの人気も回復した。

基幹教育スタートに伴うカリキュラム改訂

全学教育が平成26年(2014年)4月に廃止され、基幹教育がスタートした。全学教育は1年半であったが、基幹教育は1年間となった。基幹教育の影響により、専攻教育においても大幅なカリキュラム改訂が行われた。

理学部のキャンパス移転

平成27年(2015年)10月にウエスト1号館が完成し、理学部の他学科が理学研究院とともに移転した。これにより、理学部のすべての講義は、伊都キャンパスの新しい施設を使用して行われることとなった。